先日ロイヤルカナン主催の院内セミナーが開催されました。
今回は肝臓疾患に対する食事療法について以下にまとめます。
肝疾患に対する食事療法
●肝臓とは
肝臓は約500種類の働きがある。その中から主な機能として…
貯蔵機能(エネルギー源であるグリコーゲンを貯蔵)・代謝機能(タンパク質を筋肉に作り替える)・
分泌機能(胆汁を分泌し脂肪を分解)・解毒・血液凝固機能が挙げられる。
肝臓に流入する血管は肝動脈(30%酵素を多く含む)と門脈(70%栄養素を含む)の二種類がある。
沈黙の臓器と言われ、機能的に大きな予備能力があり再生能力が高く、損傷などがあっても症状が現れにくい。
なので、症状が出たときはかなり進行しているケースが多い。
!再生能力が高いとはどれほどか…
→犬の場合2/3とっても2ヶ月で、人の場合80%とっても1年で再生する。
この再生にはタンパク質が必要になる。
肝臓付近には門脈と呼ばれる血管があり、消化管などから栄養素を運んでいる。
先天性・後天性とあるが高血圧の子にこの門脈から大静脈を繋ぐよう通り道が出来てしまうことがある。
これを門脈シャントと言い、本来肝臓で処理されるべき有害物質が体循環に流入し障害を生じる。
主な症状に高アンモニア血症による異常行動やてんかん様発作などの神経障害(肝性脳症)が挙げられる。
アイリッシュ・ウルフハウンド、ケアン・テリア、ヨークシャー・テリアに見られる事が多い。
○肝疾患の症状
特異的な症状がない。
・初期症状…元気食欲の低下・体重減少・下痢・嘔吐・多飲多尿
・重度…黄疸・腹部膨満(腹水、肝腫大)・出血傾向・神経症状(行動の変化、旋回行動、運動失調、流延、発作など)
●肝臓と食事の関係
代謝の中心的な役割を果たします。
炭水化物…血糖値の調整(糖新生)・グリコーゲンの合成と貯蔵
タンパク質…アミノ酸代謝の調整・アンモニアの解毒と尿素合成
脂肪…中性脂肪とコレステロールの合成・リポタンパク質の合成・胆汁酸とコレステロールの排出
ビタミン…ビタミンBとKの貯蔵と活性化・ビタミンDの活性化
肝臓はほぼ全ての栄養素の代謝に必要不可欠だが、肝疾患では栄養失調になることが多い。
栄養欠乏が肝疾患を悪化させるため、管理には栄養学的サポートが要となる。
◎タンパク質
・高アンモニア血症の回避→タンパク質の制限
・肝細胞の修復・再生→適切なタンパク質
◎炭水化物(主に食物繊維について)
・結腸内のpH低下によってアンモニア生成及び吸収を抑制(可溶性)
・善玉菌が増える時に腸管内の窒素を取り込み便と一緒に排泄される(可溶性)
・結腸通過時間を短縮し便秘を予防(不溶性)
・善玉菌を増やすラクツロースの効果と酷似している。
◎脂肪
・嗜好性が上がる
・エネルギー密度が高い
・負のエネルギーバランスは免疫反応の減弱・肝性脳症の悪化を起こし脂肪率を増加させる
・肝疾患で脂肪の吸収不良を生じることは少ない
胆汁うっ滞・高脂血症・肝リピドーシス・脂肪便→脂肪の制限
◎銅
犬と銅
原発性の銅代謝障害(ベトリントン・テリア、ウエストランド・ホワイト・テリア、ダルメシアン)や
長期的な胆汁うっ滞に伴う二次的な銅排泄低下によって、肝細胞内に銅が蓄積されやすい。
猫と銅
猫では銅が肝細胞に蓄積せずに胆汁中に排泄されやすい。
→胆管内でフリーラジカルを発生し胆管炎に
◎亜鉛
肝臓の解毒機能。オルニチンカルバモイルトランスフェラーゼ(OCT)が尿素サイクルのキーになる酵素
◎アンチオキシダント
食事に含まれる抗酸化成分(ビタミンC・ビタミンE・ルテイン・タウリン・リコピン・ポリフェノール)を有効活用する。
抗酸化成分はそれぞれ働きが違うため、複数の抗酸化成分をミックスすることで相乗効果を発揮する。
◎L-カルニチン
・脂肪代謝の改善
・肝疾患時にはL-カルニチン欠乏が起きる
→アンモニア生成を抑制。猫の肝リピドーシス発生を防止する。
◎ナトリウム
肝疾患→低アルブミン血症→腹水
肝疾患→肝うっ血→門脈高血圧→腹水
ナトリウム制限することで腹水・門脈高血圧も低下する。
●犬の肝疾患用の食事
・肝臓サポート(高アンモニア血症に考慮したい時)
…銅蓄積性肝疾患・肝性脳症・高アンモニア血症・門脈シャント・腹水(肝疾患による)
・関節サポート、心臓サポート1+関節サポート(肝細胞の再生を促したい時)
…慢性肝炎(特発性)
・消化器サポート(低脂肪)(脂肪蓄積を考慮したい時)
…胆汁うっ滞・高脂血症・脂肪便
●猫の肝疾患用の食事
猫の肝疾患として挙げれれるのは、リンパ球性胆管炎・肝リピドーシス・リンパ腫です。
○リンパ球性胆管炎(おすすめフードは肝臓サポート)
・銅の排泄→銅を制限・亜鉛の給与
・活性酵素の発生→アンチオキシダント
・食欲低下→高嗜好性・高カロリー
・肝臓の負担軽減→高消化性タンパク質を適量
○三臓器炎
猫では膵管と胆管が一緒に十二指腸につながっているため肝臓・膵臓・小腸のひとつに炎症が起きると
炎症がほかの臓器に波及しやすい。
・肝臓サポート(主に肝炎の場合)
・低分子プロテイン(主に腸炎の場合)
・セレクトプロテイン(主に膵炎の場合)
○肝リピドーシス
脂肪代謝の異常を伴う肝細胞の脂肪浸潤
肥満猫→飢餓(あるいは食欲低下)→脂肪が肝臓に動員・蓄積→発症
・症状…食欲廃絶・筋肉喪失・嘔吐・肝腫大・体重減少・黄疸・脳障害
・治療…基礎的な原発疾患の治療・適切な栄養サポートを供給・
起きてしまった代謝調整不全を修正(輸液、電解質、微量栄養素など)
→早期診断と積極的な支持療法で罹患猫の>85%は回復する。
・食事管理…強制給餌・シリンジ給餌の時は退院サポートがよい。
(食物嫌悪症の悪化を防ぐことも重要)
自発的に食べるようになったら糖コントロールに切り替える。
AHT:塚田