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as創刊25周年記念セミナー① 『コツをつかんで五感で極める フィジカルアセスメント』

asセミナーの内容を以下にまとめます。

 

第1部講義

『コツをつかんで五感で極める!フィジカルアセスメント』

 

≪フィジカルアセスメントの位置づけ≫

・ヘルス:健康状態(身体+精神)

・アセスメント:情報収集・評価

・身体検査:身体を五感を用いて観察

 

≪身体検査の基礎知識≫

身体検査には視診・触診・打診・聴診の4つがあります。

 

●視診:視覚・嗅覚・聴覚を用いて身体を観察する技術。どの部分のアセスメントをする時でも常に最初に行う。

    主に左右対称性、色、位置、性状を見る。

 

●触診:直接手で触れて、体表の状態、温度、湿度、振動の有無といった情報を得る技術。爪は短く、手は温かくしておく。

    浅い触診から始める。痛みが予測される場所は最後に触診する。

Point!毛を逆立てて触診してみると皮膚炎やしこりなどを見つけやすい。部分的に温かい場所は炎症などを起こしている

     可能性もある。

手にはそれぞれ感受性があり、指先は細かい識別(脈拍や組織の性状)、指の付け根や尺骨側表面は振動(スリルなど)

手背は皮膚の温度などを判断するのによい。

 

触診の例として…

・眼圧      :必ず両目を計る。左右差or他の正常な動物との比較で判断する。

・甲状腺のチェック:甲状腺はさわることができたら異常と思ってよい。

・コフテスト   :喉のあたりを刺激して咳が出たら陽性。ずっと咳を続けるようなら問題があると考えてよい。

Point!視診と触診の結果はそれに費やした時間と集中力に大きく依存する。

 

●打診:身体の表面を軽く叩き、その音によって身体内部の状態を判断する技術。主に牛や馬などの大動物で行う。

   (指指打診法という技法があるが最近ではあまり使われない。)

打診音の分類

・鼓音 :ほおを膨らませて、そこを打診して聞こえる高いポンポンという音。

→ガスが貯留した胃腸を叩くと、太鼓を叩いたような大きな鼓音がする。

・共鳴音:肋骨を叩いて聞こえるやや低めの音。

→正常な肺であれば、中程度の大きさの空洞様の共鳴音がする。

・濁音 :肋骨/筋肉の上を叩いて聞こえる鈍い音。

→実質臓器や筋肉、骨などを叩くと、それほど大きくはないソフトで鈍い濁音がする。

 

●聴診:聴診器を用いて体内部の音を聴取する技術。聴診器の性能に影響されるところもある。

    聴診器には一体型と膜式・ベル式分離型の2種類がある。聴診器は後ろ側から耳にさすように使用する。

膜式・ベル式の使い方

→膜式とベル式を使い分ける。使う前にチェストピースは温めておくとよい。静かな環境で聴診する。

 膜式では高音、ベル式では低音を聞くことができる。

 また膜式を使用する時の注意点は膜を十分密着させること、ベル式の注意点は軽く当てることに留意する。

※一体型では強く押し付けると膜式、軽く当てるとベル式の機能の使い分けができる。

 

≪バイタルサイン≫

バイタルサイン(人の看護分野では):意識状態・呼吸・脈拍・血圧・体温

バイタルサイン(小動物の分野では):体温(T)(体重(BW))・脈拍数(P)・呼吸回数(R)・血圧(BP)(某テキストより)

          小動物分野では教科書によりまちまちである。(10項目位存在する場合もある。)

        ここでは体温(T)・脈拍(P)・呼吸(R)・痛み(P)・栄養(N)を一般的なバイタルサインとする。

Point!上記のほかに心拍・粘膜の色(舌色)・意識レベルの低下なども考慮する。

 

●体温(直腸温)の測り方:尻尾をつかんで、尾根部を上にあげる。体温計にプローブカバーをつけ、潤滑剤を塗布し

             優しく回転させながら挿入する。体温計の先端が出ないように注意する。

直腸温について     犬は38.0℃~39.0℃、猫は38.5℃~39.5℃が平熱とされる。

             1日の中では日内変動が起こる。午前6時:37.7℃~38.8℃ 午後3時:38.1℃~39.1℃

             興奮、緊張により体温は容易に0.5℃~1.0℃位、変動することもある。

             もっとも確実なのは自宅で飼い主さんに1日2回測定してもらうことがよい。

             (抗癌剤治療をしている子や出産前の子に有効)

Point!抗癌剤治療をしている子には体温上昇に注意すること!抗癌剤治療中に白血球の値が下がると感染症の恐れがある。

 

●脈拍      :動物の後方に立って、大腿動脈の位置を確認。人差し指と薬指で血管を圧迫し、中指で脈が触れなくなるのに

          要する力で判断する。脈拍の緊張度は血圧と関係が深い。脈の均一性、リズム、振幅、波形、対称性に注意。

Point!犬の場合、呼吸に伴い心拍が変化する呼吸性不整脈があり、これは正常にあたる。

 

脈拍/心拍数:大型犬種(60回/分~100回/分)

        中型犬種(80回/分~120回/分)

                   小型犬種(90回/分~140回/分)

       猫   (120回/分~250回/分)

Point!猫の心拍数で<100回は異常と思ってよい!

 

心音の聴診:静かな場所で動物と(自分)が落ち着いてから実施。人工音を消す。集中して音が小さい方から聞き始める。

       必ず全領域を聴診する。

       心雑音の有無(Levine,Thrill,PMI(=point of maximal intensity:最強点))

       必ず聴診と同時に大腿動脈も触知 脈欠損(不整脈)

心雑音の強さ:Levineの分類

第1度:集中しなければ聞こえないほど非常に小さい雑音

第2度:1つの弁口部において常に聴診可能な軽度の雑音

第3度:中程度の雑音で簡単に聴取可能で、通常他の弁口部に放射状に広がる

第4度:前胸部のスリルを伴わない強い雑音、通常胸の両側に放射状に広がる

第5度:前胸部のスリルを伴う強い雑音

第6度:前胸部のスリルを伴う強い雑音で、胸壁から聴診器を離してもまだ聞こえる

 

心雑音のタイミング:収縮期雑音→脈拍とともに起こる雑音(僧帽弁・三尖弁逆流・大動脈・肺動脈狭窄・心室中隔欠損など)

          拡張期雑音→脈拍の後に起こる雑音(大動脈閉鎖不全に伴って起こる)

          連続性雑音→収縮期・拡張期を通じて起こる(動脈管開存症(PDA)が最も一般的)

スリル:手で触れても振動として感じられる大きな心雑音。猫がゴロゴロ喉を鳴らしているような振動。指先ではなく、指の付け根で

    診察する。

 

●呼吸(観察のポイント):どんな呼吸をしているか?胸郭の動き、呼吸数(犬:10-20回/分、猫:20-30回/分)

Point!重度の心臓病や肺水腫などの場合、呼吸が苦しいので首を伸ばした状態で伏せをしていたり、寝られずに座っていることが

     ある。(犬の場合)安静時に30回以上/分の呼吸をしている時は心臓病が悪化しているサインかもしれないので注意が必要。

 

呼吸の計測 :診察台に慣れてから測定する。側方と真上から観察して胸部および腹部を観察する。胸郭の動きを観察する。

       30秒間の吸気回数を測定→1分あたりの呼吸数を測定。

呼吸音の聴診:静かな部屋で聴診する。動物をリラックスさせる。聴診器の腹側をしっかりと密着させる。聴診器のチューブの上で

       呼吸させない。毛や筋の摩擦による雑音を避ける。

      ・正常呼吸音(肺胞呼吸音)→特に末梢の肺野で聴取。吸気で聞かれ、柔らかい低い音質。

      ・気管支呼吸音      →頚部の太い気管部位。呼気で聞かれ、高調な粗い音。

異常な呼吸音:笛声音  ①いびき音(低音)→いびきのような音(痰、気管支狭窄)

            ②笛声音 (高音)→ピーピーという音が主に呼気で鳴る。(気管支喘息)

       クラックル①捻髪音     →パリパリ、プツプツ(気管支と下部気道の内腔に分泌物の量が増加)

            ②水泡音     →ぶくぶく、ぶつぶつという音が主に吸気で鳴る。(肺水腫、うっ血性心不全、肺炎)

胸部の打診 :鼓音→気胸 濁音→胸水、著しい心拡大、心膜液貯留、横隔膜ヘルニア、肺の大きな腫瘤病変

 

腹部(アセスメントのポイント):視診→聴診(→打診)→触診の順番にすること!

                 打診や触診を先に行ってしまうと腸を刺激して蠕動が亢進する可能性がある。

                 動物に触れる前に必要であれば動物に声や軽く接触してから行うとよい。

                 (過度な緊張を避ける)右側から検査する(肝臓の評価がしやすい)

腹部の聴診(腸蠕動音):聴診器は膜式を使用する。グルグル、ボコボコというような音。高調、大きな音、頻繁に聞こえる時は 

            腸蠕動運動の亢進。蠕動音は食事のタイミングによっても大きく異なる。正常の蠕動音に慣れていないと

            「異常」の鑑別ができない!

腹部の打診:鼓音→腹部の大部分(腸管)

      濁音→肝臓、脾臓などの臓器上、便塊の貯留部分、尿が充満している膀胱上

 

腹部の触診:右横臥(または立位)で診る。時計回りに評価していく。指先(2-4指で)触る。正常であれば触らない。

     (=触ったら異常な)臓器を意識する。

・浅い触診→指を軽く腹壁に沈める程度。通常は圧痛・腫瘤はなくやわらかい。

・深い触診→指が沈む程度(痛みがでることも)

・反動痛(反跳性圧痛)→指先(2-4指)で垂直に腹壁を押し、素早く指を離す→疼痛あり→腹膜炎を疑う


各腹腔臓器 胃 :鼓音→胃拡張(捻転)

      肝臓:肝臓腫大→肝臓が肋骨弓を超えて拡張

      脾臓:脾腫→触知ができるようになる。血腫や血管肉腫の可能性→やさしく触診(左腹部のあたり)

      腸間膜リンパ節:著しく腫大しなければ触知しない

      腸 :腸壁の厚さ、腫瘤病変、ガス、液体がないか、疼痛反応→異物

      腎臓:猫では両側を触診可能。大きさ、形、固さ、表面の凹凸の有無。犬では難しいことも多い。

      膀胱:固い、拡張した膀胱(+疼痛)→尿道閉塞など(移動中に膀胱破裂を起こす危険がある。興奮させない。)

      子宮:妊娠:管状(犬)、ポンデリング状(猫) 猫で子宮が管状→子宮蓄膿症

 

●痛みの評価法:生理学的評価法、ペインスコア(ペインスケール)

生理学的評価 :心拍数、呼吸数、血圧、瞳孔の大きさ、血中コルチゾール

ペインスケール:フェイススケール、単純記述採点法(SDS)、視覚アナログスケール(VAS)、メルボルン大学ペインスケール

        (UMPS)、グラスゴー大学ペインスケールショートフォーム(GCMPS-SF)、コロラド大学ペインスケール

          動物のいたみ研究会ペインスケール

痛みの数値化(スコア化):すべての評価法が主観的。痛み、不安、恐怖の鑑別、過小/過大評価しやすい、

             観察者の能力差を受けやすい。

 

●栄養:ボディコンディションスコア(BCS)、筋肉コンディションスコア(MCS)、原因不明の体重変化がないか?

BCS:5段階、9段階

 

≪全身を見るフィジカルアセスメント≫

可視粘膜の色:正常(ピンク色)、チアノーゼ()、血管拡張・敗血症(鮮やかな赤色)、黄疸(黄色)、血液量の不足(青白色

Point!可視粘膜とは通常歯肉、頬粘膜、舌などの色素沈着のない部分を指す。陰門、陰茎も代用可能。

 

毛細血管再充満期間(CRT):正常は2秒以内に色が戻る。末梢循環の簡単な評価。

体表リンパ節:下顎リンパ、咽頭後部リンパ、浅頚リンパ、腋窩リンパ、鼠径リンパ、膝窩リンパ

Point!下顎リンパや、咽頭後部リンパは普段、歯周病などでも腫れることがある。 左右差があったるするので注意すること。

    明らかに大きい場合は報告すること。

 

体表リンパ節の触診:優しく触診する。強くつかむと指先感度が落ちるのと同時に、動物の不快感が増す。必ず反対側と比較する。

          正常×1.5倍以上→異常 通常固着なし。炎症?癒着?

 

脱水評価 皮膚の緊張度:皮膚を引っ張り、指を離してどれくらいで元の位置に戻るかを評価(皮膚テント)通常は0.5秒以内に戻る。

水和状態を評価:嘔吐・下痢の病歴+脱水の臨床徴候なし→(推定脱水)4%

        口腔粘膜の乾燥、軽度の皮膚テント化  →         5%

        皮膚テント化の亢進、口腔粘膜乾燥、軽度の頻脈、脈拍正常→7%

        皮膚テント化の亢進、口腔粘膜乾燥、頻脈、弱い脈拍   →10%

        皮膚テント化の亢進、口腔粘膜乾燥、乾燥した角膜、心拍の増減(どちらもある)、貧弱な脈拍、

        意識レベルの変化→12%

                                                                       

                                                                                                                                        AHT:竹内