先日、院内ゼミを行いました(2013/6/01)
『犬糸状虫感染(フィラリア)について』の内容を以下にまとめます。
【定義】
・犬糸状虫は犬の主に肺動脈に寄生する糸状の線虫である。
・犬糸状虫は大動脈症候群や多数寄生といったような異常な状況下では右心室にも存在する。
・犬糸状虫は猫やフェレットなどといった犬以外の宿主の体内に成虫が確認されることがまれにある。
【犬糸状虫(フィラリア)のライフサイクル】
メスの蚊を通過し、蚊はフィラリアの寄生している犬やそのほかの動物種から血液中のミクロフィラリアと呼ばれる
第一段階の幼虫(L1)を吸血する。ミクロフィラリアは蚊の体内で2回脱皮する。(第1期幼虫~第2期幼虫、第2期幼虫~第3期幼虫へ)幼虫は蚊の刺し傷から宿主の体内に侵入する。刺し傷からの侵入の後、幼虫は宿主の皮下組織、筋肉へと移動していく。この組織内の移動の間に幼虫はさらに2回脱皮する。(第3期幼虫~第4期幼虫、第4期幼虫~第5期幼虫へ)
第5期幼虫になると2.5cm程に成長し、全身系の静脈に侵入し血流にのって肺動脈まで運ばれ、肺動脈の終末枝に寄生する。フィラリアは肺動脈の中で性成熟に達し、感染後190~285日(犬では最低6ヶ月、猫では最低7ヶ月)または肺動脈到達後110~210日(3.5~7ヶ月)でミクロフィラリアを産生するようになる。成虫は犬の体内で5~7年生きると言われていて、猫では2年ほどと言われている。ミクロフィラリアは妊娠中の母体から胎子に移行できるので、新生児の血流中にミクロフィラリアが存在することがある。
【症状】
・犬→犬糸状虫が少数寄生の場合はほとんど臨床症状を示さない。
呼吸器症状(咳、呼吸困難、頻呼吸)
運動をいやがる
失神
喀血(軽度からショック死まで)
腹水・肝腫大(右心不全)
・猫→(大抵)無症状
嗜眠(シミン:放っておくと眠ってしまい、刺激に対する反応も鈍くなかなか目覚めない状態。)
食欲不振
嘔吐
咳、呼吸困難
失神
【診断】
・血中ミクロフィラリア検査(血液直接塗抹法、ヘマトクリット毛細管法、集虫法など)
・成虫抗原検査(当院で使用;フィラリアの出す物質に反応する検査キット)
・レントゲン検査、超音波検査、心電図検査
【予防開始時期および終了時期】
・HDU(Heartworm Development heat Unit)を算出することによって、犬フィラリア症が感染する期間を推定することができる。
★『1日HDU』=1日の平均気温ー14(フィラリアの臨界温度)
※平均気温=(最高気温+最低気温)÷2
※感染開始は毎日『1日HDU』を加算していき、130を超えた日から感染する可能性あり
※感染終了は直近30日の合計HDUが130を切った日(HDUがマイナスだったときは0で計算する。)
★予防開始時期は感染期間開始日から1ヶ月以内に始め、予防終了時期は感染期間終了日以降に最終投与が必要である。
ちなみに…過去15年の間で一番早い神奈川県の推定感染開始日⇒5月6日
過去15年の間で一番遅い神奈川県の推定感染終了日⇒11月11日
(上記をふまえ)当院で推奨している予防期間⇒5月中旬~下旬開始、11月下旬~12月上旬終了。
【予防薬】
当院では主に『マクロライド系薬剤』を使用している。
錠剤タイプ、チュアブルタイプ(1か月に1回投薬)
これらの薬剤を投薬することで、ここ1か月の間に侵入してしまったミクロフィラリアを駆除してくれる。
(*薬を飲むことで予防効果が1か月持続するのではなく、侵入したミクロフィラリアを駆除してくれる。)
【まとめ】
・フィラリア症はきちんと予防していれば未然に防ぐことができる。
・猫がフィラリアにかかった場合、犬よりも重篤化しやすい。
・コリー種にフィラリア予防薬を処方する場合、用法・用量等を厳密に守り、慎重投与する必要がある。
・フィラリア予防薬は服用することで侵入を未然に防ぐわけではなく、侵入したものを殺す作用を目的としているので
服用するタイミングが特に重要である。最終月での服用もれは今までの予防が無駄にになってしまう可能性もあるので
十分注意すること。
・フィラリア予防薬を年度の初めに処方する時は必ず血液検査を行い、感染していないかを確認してから投薬を行うこと。
(感染しているのに投与してしまうとショック症状を起こすことがある。)
・万が一フィラリアに感染してしまっても、早めの対応ならば治療の余地はある。
AHT:竹内